Special interview 三浦一馬さん vol.3 – 素晴らしき“ソロイスツ”たちと奏でる音楽を、世界に発信したい
(C)井村重人
Special interview 三浦一馬さん vol.3
バンドネオン奏者 三浦一馬さんのロングインタビューもいよいよ最終回。三浦さんにとってのフラッグシップとも言える「東京グランド・ソロイスツ」についてや、今後の展望などをお聞きしました。
《コラボレーション=化学反応から、新しいサウンドが産まれる》
―― 5/2(日)東京グランド・ソロイスツ(TGS)を率いて新潟に来られます。TGSは「親交のある素晴らしいゲストを迎えてコンサートを作る」という裏テーマがあると聞きました。今回のゲストは新潟市出身のチェリスト・横坂源さんですね。
三浦さん これまでTGSは素晴らしいゲストの方々にご参加いただき、演奏してきました。宮田大さん(チェロ・2018年)、上野耕平さん(サクソフォン・2019年)、横坂源さん(チェロ・2019年大阪公演)、浜田均さん(ヴィブラフォン・2020年)など、いずれも第一線で活躍される名手たちです。
ゲストを迎えずTGSだけで演奏することもありますが、ゲストの方にご参加いただくことで、さらに色彩豊かなサウンドに生まれ変わることに毎回驚かされます。ちなみにピアソラ本人も自身のキンテート(五重奏)での演奏を基本としつつ、ゲストを迎え入れたプロジェクトでの名演が多く知られています。カンツォーネ歌手のミルバ、ヴィブラフォンのゲイリー・バートン、バリトンサックスのジェリー・マリガンなどが代表的なところでしょう。こうしたコラボレーション=化学反応から産まれる新たなサウンドも、TGSが大切にしているところです。
《いつかきっと横坂さんと共演したい。長い間、切望していました》
―― はじめて横坂さんにお会いになったのはいつですか?
三浦さん 8年ほど前のことです。東京の「めぐろパーシモンホール」でのガラ・コンサートでした。その時は本編での共演はなかったものの、アンコールで1曲だけ一緒に演奏をしました(ピアソラ:「アレグロ・タンガービレ」)。これは本来企画されていたものではなかったのですが、僕が出演者全員の譜面を書き、半ば無理矢理みなさんに弾いていただいたものでした(笑)。このようなガラ・コンサートでは、各々が順番に演奏をしていき、全員が何も共演しないまま終演します。その現状がなんだか寂しいなと思い、無理を言って皆さんに弾いてもらったのです。
1曲だけとは言え、この時の横坂さんとの共演は、その後も僕の中に印象的に残るものでした。楽器は違えど同じ音楽界を生きていらっしゃる先輩として、横坂さんがとても輝かしい姿に見えたのを覚えています。繊細でありながら、どこか思い切った大胆なところもあり、いつか改めて共演させていただけたらと長く思っていたのです。ですから2019年にゲスト奏者としてご参加いただけたことは、とても感慨深いものがありました。またりゅーとぴあにてご一緒できますことを、今から楽しみにしております!
横坂 源 (C)Takashi-Okamoto
《毎年感動するのが最初の音出し。メンバーの演奏は想像の遥か上をゆく》
―― 石田泰尚さんら夢のようなメンバーが揃っています。色とりどりの絵の具がパレットに乗っていて、「どんな絵を描いてくれるのだろう」とワクワクします。リーダーである三浦さんはどのような気持ちでいらっしゃいますか。
三浦さん まさしく「夢のような」という表現がぴったりですね。日本を代表する奏者の方々に集まっていただけたことは、本当に今でも信じられません。第一線で活躍されているトップ奏者であるだけでなく、それぞれが今日の音楽感覚を持った皆さんでもあります。これもまた、先ほどお話しした「新たなピアソラ像」を描き出す一助となっている気がします。
毎年僕が感動するのが、最初に音を出すリハーサルのとき。当日まで精根尽き果てるまでこだわって譜面を書くのですが、どんなに時間をかけて作り込んでも、皆さんが理想を遙かに上回る演奏を(しかも第一音から)してくださって、これ以上嬉しいことはありません…!
TGSで僕は、バンドネオン奏者&アレンジャーという両方の役割がありますが、そのどちらにおいても、いかにメンバーの皆さんが「無理なく」「気持ち良く」弾けるかを心がけているつもりです。現場での雰囲気作りもそうですし、アレンジャーとしては極力困難なことは避けながらも、魅力的なサウンドを作れるように熟考して譜面を作っています。
石田泰尚 (C)FujimotoFumiaki
《特筆すべきは、りゅーとぴあのプログラムだけが独立していること》
―― 5月の公演は、ピアソラ生誕100周年を彩る名曲尽くしです。どの曲も聴き逃せないプログラムですが、「特にこれは」といったおすすめがあれば教えてください。
三浦さん 2021年はピアソラ生誕100周年の特別公演として、TGSの全国ツアーを敢行しますが、特筆すべきはりゅーとぴあ公演のプログラムだけが、ツアーの中で独立しているということです。ソリストとして横坂さんにご参加いただくことが大きな理由です。
その中でも、代表格となるのが「ル・グラン・タンゴ」。これは元々、ピアソラがチェロの巨匠ムスティスラフ・ロストロポーヴィチのために作曲したものです。原曲のチェロ、ピアノという二重奏編成が、横坂さんのソロと共にTGSサウンドでどう昇華され生まれ変わるのか、ぜひご注目いただければと思っています。
もうひとつ、公演のメインになるのが「螺鈿協奏曲」という曲です。螺鈿(らでん)とは漆地や木地に貝殻を埋め込む手法のことで、工芸品などでよく見かけるものですが、バンドネオンのボディにも螺鈿細工が施されています。転じてここでは「螺鈿=バンドネオン」のことを示しています。
このコンチェルトは、本来9人のソロ奏者+フル・オーケストラで演奏されるものですが、僕自身がTGSを旗揚げした2017年に編み直したものです。ピアソラの中では残念ながら演奏される機会が少ない曲ですが、それがあまりにも勿体ないほどの、珠玉の名曲です。我々も2017年以来、演奏していないので、ぜひその再演にもご期待ください。
《素晴らしき“ソロイスツ”たちと奏でる音楽を、世界に発信したい》
―― 「東京」の文字は、世界へ出ていくのに欠かせなかったと聞きました。今の目標や展望などを教えてください。
三浦さん 立ち上げの段階から「東京」の文字は絶対に入れたいと思っていました。
僕が思うTGSの意義は、ピアソラの音楽を、本国アルゼンチンではなく、ヨーロッパやアメリカのような欧米でもなく、極東に位置する日本の我々が突き詰めることにあると思うのです。第三国の僕たちだからこそ俯瞰できることがきっとあるはずですし、いずれその新解釈、集大成を逆輸入のように世界へと発信したいとも思っています。
そして、その時に全てのキーワードとなる言葉こそ「東京」という二文字なのではないでしょうか。共に挑んでくれたメンバーの皆さん=素晴らしき“ソロイスツ”たちと、世界を舞台に演奏できることを今から心待ちにしています!
―― ありがとうございました。