新潟市ジュニア邦楽合奏団 第27回定期演奏会に向けてのSpecial interview
「たくさんの方に支えられている。演奏で恩返しがしたい」
――新潟市ジュニア邦楽合奏団 団長 星野 珠(高2/三味線)
新潟市ジュニア邦楽合奏団は、日本の伝統楽器である箏・三味線・尺八の編成で現代邦楽合奏を行う、全国唯一のジュニアのための邦楽合奏団です。全員が初心者からスタートし、「初級合奏」→「中級合奏」→「上級合奏」と進級試験を経て段階的に上達する新潟独自の育成システムを採用。「上級合奏」に進級後は、プロの和楽器合奏団が演奏会で取り上げるような難曲にも挑みます。
現在は36名の団員が、毎週土曜日に新潟市音楽文化会館へ集い、団にとって一番大切な夏の定期演奏会に向けて練習に取り組んでいます。その意気込みを聞くため、団長の星野珠さんにインタビューをしました。
昨年の定期演奏会の模様
―新潟市には「オーケストラ」「合唱団」「邦楽合奏団」と3つのジュニア音楽教室に加え、演劇スタジオキッズコース「APRICOT」もあります。その中で「邦楽合奏団」を選んだ理由は?
星野さん 私は3兄弟ですが、姉も兄もこの教室に在籍していました。姉が「箏」で兄が「尺八」。だから(入団対象となる)小学2年生になれば、私も入団するものだと勝手に思っていました。楽器選択は、姉と兄が選ばなかった三味線を選びました。(笑)
入団して間もない星野さん
―小2から高2まで、9年間もこの団に在籍していることになります。途中で辞めたいと思ったことは?
星野さん それは一度もありません。ただ、挫折は何度か経験しています。毎回大きな公演の前には、ソリストや席次を決める「オーディション」があるのですが、そこでうまく弾けなかったときには何度も落ち込みました。しっかりと準備してきたのに結果がでない。このまま楽器を続けても無駄なのでは?と、マイナスなことばかり考えたりして…。
三味線「上級」分奏練習
―それでも楽器を続けてきた理由は?
星野さん 三味線が好きだからです。正しい勘所(音程)で弾くのがとにかく難しい楽器ですが、その分だけうまく弾けたときの達成感も凄い。また団全体はもちろん、三味線パートの雰囲気が良いのも通いたくなる理由です。アットホームで居心地がよく、まるで家族のよう。これは三味線の先生方の影響も大きいですね。簑田先生の“ほっこり”した感じにいつも癒され、また長井先生はこの団の卒団生なので、「あのようになりたい!」と常に尊敬の眼差しで見つめています。
三味線「初級」パート練習(右端が卒団生でもある長井先生)
―今年の4月からは、団長になりましたね。
星野さん 団長になった理由は2つあります。まずは姉も団長だったから。団を率いる姉の姿に憧れていたのと、姉と共に役員を務めていた高校生の先輩方が輝いていて。だから私も姉のような立派な団長になりたい、むしろ姉を超えたい、そして信頼できる高1~2年生の役員仲間と共に、もっとこの団を素敵にしたいと思いました。もう1つは、団に恩返ししたいという想いです。ここまで三味線を弾けるようになったのは先生方のおかげと、励ましてくれた先輩や仲間たちのおかげです。高校生になったら今度は私が団に恩返ししたいと、ずっと考えていました。
箏「初級」パート練習
―団長としての悩みは?
星野さん 悩みばかりです。まずは全体が見えていないこと。三味線パートの団員はよく目につきますが、箏や尺八の団員に対しては目が届かないこともあります。また、他パートの団員のことは注意し辛いですね。人の上に立つことに慣れていないので、「嫌われたくない」という思いが拭えず、箏や尺八の団員には遠慮してしまいます。でもそこは、団長として絶対に克服したい。それとトークには苦手意識があります。様々な場面でトークをしなければなりませんが、歴代の団長のようにうまく話せません。そこも克服したいです。
合奏練習(尺八)
―団長として力を入れたいことは?
星野さん 2つあります。まずは小学生と積極的に関わりたいです。私が小学生だったとき、当時高校2年生の団長だった先輩にとても可愛がってもらいました。一緒に演奏してくれたり、たくさん私のことを褒めてくれたり。だから今度は、私も同じことがしたいなと。でも今は、新型コロナの影響で練習時間が細かく分かれているため、小学生と一緒に過ごせる時間がほとんど持てません。もう1つは団員みんなに、「邦楽合奏やっていて良かった!この団が本当に楽しい!」と思ってもらいたいです。そのためにも、1泊2日で練習に取り組む「夏期合宿」を開催したかったのですが、こちらも新型コロナで叶わず残念でした。
三味線「初級」の面倒を見る高校生
―団長になって、良かったことは?
星野さん 良かったことばかりです。例えば大人との関わり方が学べること。普段の高校生活では、両親や学校の先生以外の大人と関わる経験はあまり持てないと思いますが、この団では各パートの先生方や事務局の方々など様々な大人と関わることができます。しかも「演奏会を成功させる」という一つの目的に向かい、一緒に努力ができる。この経験は貴重で、大学生や社会人になっても生かせると考えています。もう一つは、段取力が身についたこと。「演奏会の成功」というゴールに向かい、どの時期にどんなことを行うべきか計画できるようになり、先を見通す力や効率の良い時間の使い方ができるようになりました。
合奏指導・指揮者の鯨岡先生
―最後に、定期演奏会への想いを。
星野さん 来場されたお客様の心に残る演奏会にしたいです。実は高校1年生になると、この団はどのように運営されているのか、またどういった方々や組織からどんなサポートを受けているのかについて、事務局から具体的に教わる機会があります。その話を聞いて、いかに自分たちがいろんな方々に支えられているのか、また恵まれた環境で好きなことに専念できているのかがよく分かりました。そうした方々へ恩返しする唯一の方法は、クオリティの高い演奏をお届けすることだと思っています。コロナ禍で練習時間が制限されていますが、先生方と工夫しつつ効果的な練習方法を考えて、良い演奏を届けるための努力をしています。
尺八「初級」団員の楽譜。指揮者の指示をたくさんメモしている
また「クオリティの高い演奏を届けたい」という想いは、7月の定期演奏会で卒団される高校3年生のためでもあります。最後に良い合奏を一緒にお客様へ届けることで、「この団で演奏できて本当に良かった!」と卒団生には思っていただきたいです。
卒団する高校3年生も交えた全員合奏練習
お客様、OBOG、先生方、事務局の方々、そして私たち団員と、この団に関わるすべての方が新潟市ジュニア邦楽合奏団のことを大好きになるような演奏会にしたい。それが団長としての私の想いです。
設立して27年。「日本で唯一という珍しさでは凄いと言われたくない。実力で凄いと言われたい!」と、団員たちはずっと願い続けてきました。今まさに、その想いが実りつつあります。邦楽合奏に青春を捧げる子どもたちの熱演を聴きに、ぜひコンサートホールへお越しください。きっと、皆様の想像を遥かに超える名演を届けてくれるに違いありません。