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新大陸に血のように赤い夕日が沈む

音楽企画課の榎本広樹さんにお話しを聞きました。

―― 榎本さん。新潟のお盆が終わりましたね。

榎本 私はお墓参りに、家族団欒に、穏やかなひとときでした。そちらはいかがでしたか。たしかご出身は遠方でしたよね?

―― はい。このお盆は帰省できなかったので、故郷が偲ばれます。

榎本 そうでしょう。私も故郷を思い出します。周りの杉林から降り注ぐセミの声、暑い日差し、夏草の匂い…。

「ふるさとは遠きにありて思ふもの、そして悲しくうたふもの」とは、詩人・室生犀星が故郷への愛と悲しみを込めて歌った詩ですが、人は生まれ故郷への思いを一生忘れることができないのかもしれません。

さて、今日のお話はドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」です。

―― かの有名な「新世界より」。

榎本 そうですね。シューベルトの「未完成」、ベートーヴェンの「運命」や「第九」と並んで、最も有名な交響曲に数えられます。第2楽章のメロディは堀内敬三の作詞で、「遠き山に日はおちて」と歌われて親しまれていますし、私が卒業した小学校では下校の時刻にこのメロディが放送されていました。

―― 「もう帰りなさい」とね。郷愁ただようメロディです。

榎本 第4楽章の冒頭も力強くてかっこよくて。中学生の頃は憧れました。思春期の頃って疾風怒濤といいますか、エネルギッシュでどんどん前に進んでいく力強さに憧れるじゃないですか。好きだったなあ、第4楽章。

―― わかります。ところでこの曲、「新世界」ではなくて、「新世界より」と、“より”がついているのがポイントですよね。

榎本 はい。作曲者はドヴォルザーク。1892年9月27日、すでに国際的に有名だったドヴォルザークは、ニューヨークの音楽学校の校長として招かれて、遠いチェコから引っ越してきます。家族をふるさとに置いてですから、お父さん、つらいですね。

―― 単身赴任ですか。子どももいたんですか?

榎本 13歳を頭に、6人の子だくさん。

―― それはそれは。

榎本 当時のアメリカは独立してからまだ100年とちょっと。現在のアメリカ本土と呼ばれる国の形が整ってからまだ50年も経っていません。奴隷解放宣言と南北戦争の終結からも、まだ30年も経っていなかった。バリバリの新興国でした。

―― 西部劇みたいな風景だったのでしょうか。

榎本 だと思います。当時のアメリカはヨーロッパから見ればまさに新大陸。そのアメリカから、望郷の念やみがたく、家族のいる故郷チェコへの愛情と慕情を音楽にしたのが、この交響曲第9番「新世界より」だったのです。

全編親しみやすいメロディ、かっこよくて迫力ある音楽がこれでもかと詰まっている、まぎれもない傑作です。

ちょっと音楽の話になりますが、「新世界より」の最後の1音はフェルマータの和音をディミヌエンドしながら出すというもので、指揮者のストコフスキーという人はこの部分を「新大陸に血のように赤い夕日が沈む」と評しました。

―― その「新世界より」を、9/24(日)東京交響楽団 第102回新潟定期演奏会で聴くことができる。

榎本 そうなんです。そして実はこのコンサート、もう一曲スペシャルなおすすめがあります。

―― なんですか?

榎本 ドヴォルザークはチェコが生んだ大作曲家ですが、同じくチェコ出身の作曲家ヤナーチェクによる「シンフォニエッタ」が極秘のおすすめです。

―― これだけ宣伝してきて極秘というのもナニですが、秘曲にはそそられますね。

榎本 大変に壮麗な曲なんですが、滅多に演奏されないのです。なぜならトランペットだけで12人も必要だから。考えてみてください。プロのトランペット奏者が12人ですよ。ド迫力です。すごいんです。

そしてこの曲はひょんなことから大変有名になった曲でもあります。村上春樹さんの傑作「1Q84」で、冒頭からこの曲が鳴り響きました。

―― 「1Q84」、話題になりましたよね。

榎本 村上さんの作品の中でも「1Q84」は特にクラシック音楽との関わりが多い小説ですが、シンフォニエッタというこの曲がとても重要な“しるし”として登場します。クラシック音楽ファンだけでなく、村上春樹ファン、ハルキストの皆様にもお聴きいただきたいコンサートです。ぜひお越しください。

―― ありがとうございました。これでインタビューはおしまいです。

榎本 あ、今回は遠い目するの忘れた。

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