魔性の魅力
新潟の空は大きいなあと、信濃川河畔の遊歩道を歩きながらいつも思います。
高村光太郎の詩集『智恵子抄』には、「東京には空がない」という嘆きがありますが、高村夫妻も新潟に住んでこの大きな空を見上げれば、そんなことは思わずに済んだのに、などと夢想してしまいます。
光太郎にとっては智恵子こそがファム・ファタール、《運命の女》その人だったのでしょうけれど、私がこの人の演奏を聴いたときも、聴く側の一生を動かしてしまう、ファム・ファタール的な魔性の魅力を感じました。
カルメンのような肉食系女子ではありません。様々な音色を次から次にピアノから取り出す姿は、むしろ音色と虚心に戯れる無邪気さすら感じさせます。でも、その無邪気さこそが危険なのです。気づけばすっかり虜になってしまっている。
一見してカルメンのようなら、近づく側も警戒することができます。ホセも警戒しつつもコロっと魂を持って行かれてしまったわけですが、そしてだからこそファム・ファタールなわけですが、それでも最初は警戒することから始められる。
でもこの人の場合はどうでしょう。安心して、むしろ応援する気持ちで聴いているうちに、陶酔の淵に深く沈んでしまう…。
この人を紹介するのに、もう、国際コンクールの優勝歴などを書く必要はありません。カラフルな音色。無邪気でコケティッシュ。ファム・ファタール、知らぬ間に人を、陶酔へと誘うピアニスト、萩原麻未がりゅーとぴあに登場するのは、11月23日(木・祝)です。お聴き逃しなく。
※ぶらあぼ2017年10月号より