上手くないトランペットは、いらんぺっと。
―― 榎本さん、今日もよろしくお願いします。
榎本 よろしくどうぞ。さて、貴兄は中学・高校時代、何か部活動はされていましたか?
―― 特に何も。榎本さんは、いかがでしたか。
榎本 私は中学・高校と吹奏楽部でトランペットを。でも、全然上手じゃなかったので、指揮者からは「ならんぺっと」とか「いらんぺっと」と言われていました。
…それはさておき、私が高校吹奏楽部の時、ホルン担当の友人が、ある曲に対して怒りまくったことがあって。
―― 曲に怒るって、どういうことでしょう?
榎本 ホルンはとても難しい楽器なんですね。特に高い音が出にくく、音を外しやすい。ギネスブックに「世界一演奏が難しい金管楽器」と掲載されていたと聞きます。そのホルンに、とんでもない超絶技巧を要求した作曲家がいたのです。
―― 誰ですか、その作曲家は。
榎本 ロベルト・シューマンという人です。彼が作曲した「4本のホルンと管弦楽のためのコンツェルトシュテュック」は、軽快なテンポにのせてホルンが歌いまくる曲ですが、これを演奏するにはおよそ信じられないような超絶技巧が必要です。それで高校生の私の友人は「こんなんできるか!」と怒りまくって楽譜をバサッと。
―― 破った?
榎本 両手で勢いよくカバンにしまった。とにかく難しい曲なのです。悔しいことに、聴く側には実に心地いい曲なのですが。
―― 演奏は大変で、聴くのは心地いいなんて、リスナーにはおいしい曲ですね。
榎本 そうなんです。その友人も実はずっと隠れてヘッドホンで聴いていたのですよ。さて、その曲をいよいよ新潟で聴ける日がやって来ます。12/3(日)開催、東京交響楽団 第104回定期演奏会です。
―― 指揮は音楽監督のジョナサン・ノットさんです。肝心のホルンは誰が演奏するのでしょう。
榎本 音楽監督のノットさんのお眼鏡に叶ったホルンの名手4人組、「ジャーマン・ホルンサウンド」が来日して演奏します。近年ヨーロッパの主な音楽祭ほぼ全てに出演し、国際的にも高い評価を得ている4人組が、東京交響楽団と溶け合ってどんな響きを聴かせてくれるのか。本当に楽しみです!
―― この曲、あまり演奏される機会がありません。やはり難しいからですか?
榎本 難しいだけでなく、ホルンの名手を4人も揃えるのが大変で、あまり演奏されません。でも、今回はドイツから逸材が来ますので安心です。
―― このコンサートの聞きどころは、やはりそのシューマンの曲ですか?
榎本 それだけじゃないんです。音楽監督ジョナサン・ノットが指揮するベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」がメインですから、このコンサート盛りだくさんです。
―― 盛りだくさんで、監督も団員も大変ですね。
榎本 これは東京交響楽団の団員の方から直接聴いたのですが、オーケストラのメンバーは、優れた指揮者との演奏は、どんなにスケジュールがキツくても疲れないそうです。
正確には疲れるのでしょうけれど、心地よい疲れというか、精神的身体的に疲弊してしまわないようで。その代表格が音楽監督のジョナサン・ノットさんとの演奏とか。
―― カリスマ性があるのですね。
榎本 100人近い音楽家の心を指揮棒一本でつかんでしまうのですから、指揮者とはすごい存在です。
さて今回のベートーヴェン、私のおすすめは第2楽章。まるで悲しみを音楽の結晶にしたような葬送行進曲です。ベートーヴェンだから典雅というよりやや武骨なのですが、本当に純度が高い。今回指揮するノットさんはイギリス出身ですが、「ドイツ人よりもドイツ的」と言われるほどドイツ音楽が得意です。ノットさんと、彼に心酔する東京交響楽団が織り成す悲しみの結晶を、ぜひこの12月に聴いていただきたいです。
―― ベートーヴェンで12月というと「第九」が思い起こされます。
榎本 そうですね。新潟市でもずっと年末に第九が演奏されていて、今年は18回目を数えるそうです。(12/17開演 第18回新潟第九コンサート2017)
12/3にノットさんと東京交響楽団によるベートーヴェン交響曲第3番を聴き、その後第九をお聴きになって良い年を迎える、というのが今年の年末のおすすめです。
―― ありがとうございました。かなり早いですが、榎本さんも良いお年を。