東京交響楽団のカリスマ、第3代音楽監督ジョナサン・ノットが新潟へ!
いよいよ来月11/4(日)、東京交響楽団 第110回新潟定期演奏会に、音楽監督ジョナサン・ノット氏が登場します。東響と“相思相愛”と言われる関係は、就任3年後の今どのように深化しているのでしょうか。ノット氏のオーケストラへの思い、そして今回の演奏会への意気込みなどを、当館音楽スタッフの榎本さんが聞きました。
《限界を超えて、自分を超える。可能性を広げ続ける東京交響楽団!》
榎本 昨年12月に行われた第104回 新潟定期以来、ほぼ1年ぶりのご登場ですね。前回ベートーヴェンの交響曲 第3番「英雄」を演奏してくださったとき、オーケストラが燃え上がり、お客様も熱狂しました。終演後ホワイエで、興奮したお客様が何人も「今日はすごかったね!」とスタッフに声をかけてくださったんですよ。
ノット そうでしたか。今「オーケストラが燃え上がった」とおっしゃいましたが、きっと東響のメンバーたちは楽しんでいるのだと思いますよ。
榎本 楽しんでいる?何を楽しんでいるのですか?
ノット “自分の限界を広げること”をです。私は彼らと音楽をつくるとき、あえて困難な状況を課すことがあるんです。「飛行機から飛び降りよう!」という感じで、リスクを承知で自分の限界にチャレンジさせる。それがうまくいったときのスリルといったらないでしょう?楽団員たちが感じるスリルはお客様にも伝わって、会場の熱を作り出していると思いますね。
榎本 確かにノットさんの演奏は緊張感に満ちています。
ノット 緊張感はコンサートの必需品です。最初の一音から最後の一音まで、張り詰めたテンションを保たねばなりません。音から音へと移り変わるわずかな瞬間でさえも気を抜いてはならない。そうして始めて、音楽が流れるように物語を語ることができますし、お客様とエネルギーの交換ができるのです。
榎本 エネルギーの交換は、一瞬たりとも途切れてはいけないのですね。
ところでノットさん、私たちは楽団員の皆さんと、年間約60校の新潟の小学校へアウトリーチに出かけています。一緒に過ごす親密な時間の中で、こんなことを聞きました。「ノットさんとならどんなにハードなスケジュールでも疲れない」と。指揮者とオーケストラの幸せな関係ですね。
ノット 東響との関係は日ごとに深まっています。私は彼らを信頼し、彼らも信頼してくれている。相互の信頼関係があるから我々は共に挑戦できるし、可能性を広げていけるのです。クラシック音楽は単なる過去の焼き直しになってはいけません。「今」を語るべきものです。そのためにもチャレンジングな姿勢は必要です。
《音楽とは旅路。11月の定期演奏会で、皆様を新たな旅路へお連れします》
榎本 さてノットさん、11/4(日)の東響定期第110回についてお聞きします。ラフマニノフとブラームスを演奏されますね。
ノット ラフマニノフの交響曲 第2番は、これまで私が指揮する機会の少なかった曲のひとつです。ロシア音楽独特のペーソス(哀愁)があって、その世界観に入っていくのが楽しみです。クラシック音楽には生きることの困難さを見つめた厳しい作品も多いですが、ラフマニノフのこの曲は美しくて、情緒的で、きっと聴衆の皆さんに和んでいただけると思います。
榎本 流行に捕らわれなかったラフマニノフは、作曲家として過去を見つめていた印象があります。ノットさんご自身は過去を振り返るタイプですか?
ノット いいえ。私にとって過去は振り返るものではありません。過去は足元にあって、今日を積み上げていく土台なんです。全ての過去は未来を支えていると考えれば、恐れることは何もありません。
榎本 さて、ブラームスはどんなタイプの人物だと思いますか。
ヨハネス・ブラームス
ノット ブラームスは大変な知性派で、ベートーヴェンという偉大な存在から受けた影響を巧妙に隠した人です。音楽の影響だけでなく、本当の自分も覆い隠していた。例えるなら分厚いコートを着て、「人生楽勝だよ」と言いながら、コートの中を覗くと救いがないほどの深い悲しみを秘めた人物。ブラームスは髭を蓄えていますが、あれも本当の自分を隠すためだったのではと思います。
ところで、若き日のブラームスの肖像画を見たことがありますか?
榎本 はい、見たことがあります。
ノット とても繊細で、今にも壊れそうな儚さをたたえていますよね。繊細だったからこそ歌うような旋律や美しいメロディがかけた。私は彼の曲を演奏するとき、いつもその儚い表情を思い浮かべています。
榎本 そのブラームスのピアノ協奏曲 第2番を今回演奏するのが、ヒンリッヒ・アルパースさんです。
ノット アルパースと最初に出会ったのは2011年のことです。私はバンベルク交響楽団の首席指揮者を務めていました。その年は変化の波がどっと押し寄せて、厳しい一年でした。
ある日、バンベルクで行われたオーディションにアルパースが来てくれたのですが、彼が弾いたブラームスを耳にして、私は思わず涙していました。テクニックも音色も素晴らしく、音楽とはこれほど人に語りかける力があるのだと思わせてくれた。彼の演奏をまた聴きたい、また会いたいと願って、数年後バンベルクで共演しました。
ヒンリッヒ・アルパース(ピアノ)
榎本 そして、さらに数年後となる今回、新潟で共演されますね。私たちも本当に楽しみにしています。最後に新潟のファンにメッセージをいただけますか?
ノット いつも私たちの音楽を聴き、喜びを分かち合ってくださって、本当にありがとうございます。私にとって新潟の聴衆の皆さんは、音楽界を動かすほどのエネルギーを持っている方々です。
私は常に、音楽は旅路だと申し上げています。11月の演奏会でも皆様を新たな旅路へとお誘いしますので、そこでお会いできますよう願っています。ご来場をお待ちしております。
榎本 ノットさん、素敵なお話しをありがとうございました。
インタビュー終了後・・・
インタビュー終了後、助成産伸人(ジョナサン・ノット)と書かれた掛け軸をプレゼント。“楽団員の創造性を助け、伸ばしていく人”の意味が込められている。