Special interview 「たいようオルガン」~私がやりたかったことはこれだ!
左から荒井良二さん、石丸由佳、小林沙羅さん、野村誠さん
Special interview 小林沙羅さん(ソプラノ)
荒井良二さん作の「たいようオルガン」をご存じでしょうか?躍動感あふれる言葉のリズムと、カラフルで力強い色彩が人気の絵本です。この絵本を題材に、水戸芸術館が作曲家の野村誠さんへ作曲委嘱を行い、彩り豊かな響きをまとった素敵な音楽作品となりました。演奏は、近年オペラ界で目覚ましい活躍を見せるソプラノの小林沙羅さんと、当館専属オルガニストの石丸由佳の2人。6月12日(日)に開催された水戸芸術館でのコンサートの直後、興奮も冷めやらぬ中で、7月2日(土)の新潟公演に向けての意気込みを小林沙羅さんに伺いました。
―小林さん、本日の水戸公演、素晴らしい演奏でした。ありがとうございました。
小林さん ありがとうございます。昨年11月の初演のときも楽しかったのですが、再演ということで時間をあけて、リハーサルも再度し直しました。初演の時には見えなかったことが見えてきたので、余裕を持って楽しめました。石丸さんともお話ししましたが、お互いの音をよく聴けるようになって、かけあいが楽しくて。
今日の子どもたちの反応も、とっても良かったです。曲中に子どもたちに「♪乗りたい人、手をあげて〜」と呼びかけるところがありますが、いつ言うのかな?まだかなー?と手を握りしめて待っている様子が伝わってきて、とても楽しかったですね。
―そうですね、小林さんと子どもたちが対話しているような感じがありました。素敵な歌声を披露してくださいましたが、ソプラノ歌手としてオペラへの出演やオーケストラとの共演も多く、様々な場面で活躍されています。歌との出会いや、歌手になろうと決意したきっかけなどを教えてください。
小林さん 歌は小さい時から大好きで、2歳くらいでまだ言葉もしゃべれない頃に「ポッポッポーはとポッポ〜」と歌っていた録音も残っています。歌が身近にあり、家族で一緒に輪唱したり合唱したり、歌の大好きな家族でした。小学校で合唱をする時にはソロに立候補したり、流行りの歌をカラオケで歌ったりしていました。
それからバレエもやっていたので、舞台にのることが好きでした。ミュージカルを見に行った時に楽しそうだなと思って。演劇も好きでしたし、漠然と舞台へ出演する人になりたいなと。その時はまだクラシックやオペラ歌手になる気はなかったんです。ただ、歌が好きだし、歌を極めて、歌を武器に女優になるとか、ミュージカルをやるとか、そういうことができたらいいなと考えて。歌を習い始めたのは、高校2年生の進路を決める時でした。でも普通の高校生でしたね、ポップスを歌ったり、バンドでギターを弾いたりもしていましたよ。
東京藝術大学に入学してからは、先輩のオペラの舞台に合唱で出演したりしているうちに、オペラの面白さに惹かれて行ったんです。宗教曲や歌曲も最初は興味なかったのですが、歌っていくうちに面白さを知って、沼のように抜け出せなくなりました。大学に入ってから、私の生きる道はここなんだなと思ったんです。そこから必死に勉強を始めました。
今は、私がやりたかった「歌を通して舞台上で何かを伝える」ということができているなと感じています。オペラだったら演技があって、歌曲だったら演技はなくても曲の中にドラマがあります。歌を通して舞台の上で表現する・演じることに繋がっているんです。
―「たいようオルガン」について伺います。絵本についてはどんな感想をお持ちですか?
小林さん とても色彩が美しい絵本ですね。ゾウバスがただ走っていく、いろんな場所を通って、いろんな人を乗せて行き、また降りていく。はっきりした物語があるわけではないけれど、たくさんの物語が絵本の中に詰め込まれているんじゃないかなと思います。独特で、色使いが豊かで創造力が広がっていく絵本ですね。
子どもに読み聞かせたら、その時は何にも言わずに反応がなかったけれど、次の日に急に絵を描き出して。白いところがなくなるくらい、紙いっぱいに絵を描いていたので、荒井さんの絵本の威力はすごいなと。3歳か4歳くらいだったんですが、すごいエネルギーを持つ本で、子どもにもちゃんと届いているんだなと感じました。
―音楽作品の「たいようオルガン」についてはいかがですか?
小林さん 学生の頃から仲間たちと、言葉と音楽を使って、どんな風に表現していけるかを実験するグループを組んで活動していました。「VOICE SPACE」といって、今も新作を作り、発表を続けています。その中で、私のライフワークとしていることがあって。
クラシック音楽は再現芸術が大きなウエイトを占めているんですが、今この時代に演奏しているものも100年後にはクラシックになるんです。普遍的な音楽を演奏するのも大事だけれど、今を生きている私たちが、今の音楽を作ることも大事なことだなと思っていて。歌い手として、私の声を通して新しい作品を世に届けることについて、生き甲斐にしているんです。「たいようオルガン」の楽譜を開いた瞬間に、これは私がやりたかったことだ!と。そうそう、これこれ!という気持ちでした。ただ歌うだけではなく、しゃべったり、歌ったり、面白い声を使ったり、子音だけを使ってみたり、声や言葉の可能性を野村さんが追求していらして、それがまた絵本の世界をさらに広げてくれているなと思います。
石丸さんとリハーサルをした時も、オルガンはいろんな音が鳴るんだなって衝撃的でした。本当に絵本の色彩がオルガンで体現されてるなと思います。オルガンは、同じ音の高さでもいろんな音色が出るんですよね。リハーサルもワクワクして、そしてリハーサルでのオルガンと、ホールでのオルガンはまた違って。オルガンは1台1台違うので、水戸での「たいようオルガン」も音を出した瞬間にうわーと思いましたし、新潟でもりゅーとぴあでしかできない「たいようオルガン」の演奏ができるので、今からとても楽しみです。
オルガンとの共演は「たいようオルガン」が初めてでした。ピアノは鍵盤を叩いたらすぐ近くで音が出るんですが、オルガンは遠いところから音が鳴るので、上から降り注いでくるイメージです。不思議な、でも幸せな空間の中で歌える感じがして、とても気持ちいいですね。
―次は新潟公演です!新潟の印象やイメージはありますか?
小林さん 学生の頃に一度りゅーとぴあへ合唱で行ったことがありますが、存在感のある大きいホールだなという印象です。ソリストとしては初めてなので、どんな響きなのか、オルガンと一緒だとどんな演奏になるか、ドキドキしています。あとは日本酒が好きなので楽しみです(笑)
―最後にメッセージをお願いします。
小林さん この作品は、ただ音楽を届けるだけではなく、聴いている方も一緒に登場人物になれる作品だと思います。「絵本の世界に入っていくぞー!」という気持ちで、楽しみに来てもらえたら嬉しいです。