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<後編>「親友の言葉と、あるビジネスマンとの出会いが人生の転機です」能楽師・塩津圭介さんインタビュー

こちらはインタビューの<後編>です。<前編>はこちら。

いよいよ開催が近づいてきました、2月23日(木・祝)『リクエスト能「葵上(あおいのうえ)』。シテ(能の主役)を務める能楽師の塩津圭介さんにロングインタビューをしました。3歳から子方(能で子どもが演じる役)として能舞台に立ち、お稽古を重ねながら思春期を過ごした塩津さんは高校に進学する前に、父・塩津哲生さんから「能楽師の道に進むのか」と選択を迫られます。塩津さんが能楽師としての人生を選んだ2つの大きなきっかけがありました。

<後編>「親友の言葉と、あるビジネスマンとの出会いが人生の転機です」能楽師・塩津圭介さんインタビューの画像

塩津 圭介(しおつ けいすけ)
能楽シテ方喜多流。1984年生、東京都出身。喜多流能楽師・塩津哲生の長男。3歳のときに独吟「老松」にて初舞台。父に師事。2011年「猩々乱」、2015年「道成寺」、2018年「石橋(赤獅子)」を披く。APU立命館アジア太平洋大学非常勤講師。2004年に若者の若者による能「若者能」をたちあげ毎年公演を開催している。

背中をおしてくれた2人の言葉

―能楽師を志すきっかけになった2つの出来事とはなんでしょう。

一つは、私の小学校からの親友の言葉です。私の悩みを打ち明けたところ「それは絶対やるべきだ」と言ってくれました。彼は過去にお医者さんだったお父様がお亡くなりになったこともあり、医者を志していました。そんな彼は私に、「医者は一度に救えるのは一人だけれど、能楽師は舞台で一度に沢山の人の心を動かせる素晴らしい仕事だと思うからぜひやってほしい」と言ってくれました。今はお互い忙しくて会えていませんが、都合がつく時に私の舞台を観に来てくれています。彼がくれた言葉は、私の人生の節目で力を貸してくれています。

もう一つは、尊敬するある方からの言葉でした。実は私、ビジネスマンになりたかったんですよ。そんな折に、ある有名なビジネスマンと出会う機会がありまして、その方に「なぜお能でビジネスやらないの?自分自身が商品になるじゃない。」と言われたんです。中学生の私にとっては、「能楽師」と漠然と持っていた「ビジネスマン」という夢が、いくらでも重なると言われたのです。「君は3歳のときからやっていて今16歳ですね。13年のアドバンテージがあるんでしょう。だから縛られているとかチャンスが少ないんじゃなくて、チャンスが多いんだよ。他はみんな20歳過ぎてから何やるか考えるなかで、もうすでに選択肢が多くて、20歳過ぎてからそれになろうと思ってもなれない人が多いんだから、そこは最大限活かしなよ」と。

この2つの言葉が僕にとって大きなインパクトでした。それが父の作戦だったんだと思うんですけど、「自分で選んだ以上は弱音を上げるな」と言われました。挫けそうにこともありましたが、先輩たちや仲間、それから僕より大きなものを背負っている友人たちの存在が支えになっています。例えば、400年の老舗の和菓子屋さんの倅や、誰でも知ってる会社の息子と、「自分たち、やるしかないよね。俺もやめないからお前もやめるなよ」とお互いに励ましあっていました。そのような人たちが後押ししてくれたり、首根っこつかんで引き留めてくれたおかげで、なんとかここまでやってこられました。

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先輩、友人たちと根津美術館にて

 

―素敵なご縁にも恵まれたのですね。

本当におっしゃる通りです。自分が憧れる人たちが能に興味を持って、さらに能をやっている「塩津圭介」に興味を持ち、言葉をかけて応援してくださった出会いが数多くありました。それを裏切りたくない、期待されたら応えたいと思い、もう後戻りできないところまできた、と感じています。

共に過ごした10年間を振り返る

―今回のリクエスト能は、お客様からの投票で曲が選ばれるので、皆様楽しんで投票してくださったと思います。今回の企画について、快くお引き受けいただけて大変うれしい限りです。

我々は能の曲目を常にレパートリーとして持っていて、今やれと言われたらできる状態に日々から稽古することが根底にあります。リクエストの選択肢が奇曲ばっかりの10曲だったら「ちょっと待ってください!」と言ったかもしれませんが(笑)。候補10曲はこの10年間の講座で扱った能から選ばせていただいたので、どれでもお任せください、という気持ちでいました。

源氏物語の醍醐味の一つ、六条御息所の嘆きや悲しみ

―リクエストで選ばれた「葵上」の見どころを教えてください。

主人公の六条御息所は哀しみ、怒り、悔しさなど涙を流す型が多いですが、それがどういう涙なのか、皆さんが自分の経験と重ねてご覧いただければと思います。恋の物語だけではなく、本来だったら自分がするはずだった役割や仕事をとられる状況になった時など、自分の経験と重ね合わせて観ていただきたいです。

「葵上」はすごくメジャーな曲ですし、小説で読めば答えは明確だと思いますが、能の「葵上」は最後の答えが良い意味で曖昧です。固定概念に囚われず、六条御息所はどういう人なのかな、私の心にはどのように映るのかなと、自分自身を感じていただければと思います。

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―新潟のお客様にメッセージをお願いします。

「能楽師に聞く 能の楽しみ」講座が10周年と伺い、もうそんなに時が経ったのか驚いています。私にとってこの10年は成長期で、新潟の皆さんに観ていただけたことを嬉しく思います。いつも申し上げておりますが、新潟は第2のホームという感覚です。りゅーとぴあの舞台に立つと、知っているお顔も多く、温かく見守っていただいている感じがあります。その恩返しになるような「葵上」を舞いたいと思っております。

 

ありがとうございました。

2月23日(木・祝)『リクエスト能「葵上(あおいのうえ)』は好評発売中です。「若手能楽師に聞く 能の楽しみ」の時期からご愛顧いただいているお客様、初めて喜多流のお能に触れるお客様も楽しむことができる公演になっています。終演後には出演者によるアフタートークもあり、お能や能楽師について知ることができる機会です。ご来場をお待ちしております!

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