「5台ピアノの世界」連載コラム~5台ピアノのCDができるまで②~
レコーディング現場の様子
《本章》
今回のCD製作を手掛けてくださったのは、今年で発足50周年を迎えた コジマ録音。常に時代をリードする作品、そしてこだわりをもった音つくりは業界から高い評価を受けている。りゅーとぴあとはこれまであまり繋がりはなかったが、ピアノ・ツィルクスのメンバーとの繋がりから、今回共同でのCD製作が実現することとなった。
2023年秋、阿佐ヶ谷にあるコジマ録音の事務所へ打ち合わせに行った。そこではレコーディングの段取りから、CD の収録曲や仕様(ブックレットの内容やデザインなど)について詳細を話し合った。
最初の問題はどの曲を収録するのか、という点。CDとしてより魅力的にする、なおかつ4日間に録り終えられるボリュームをアーティストとコジマ録音とホールスタッフの3者でよく吟味した。結果として、2022年公演で初演した「Five Kings」(りゅーとぴあ委嘱作品)、そしてツィルクスの十八番「木星」、比較的合わせやすく演奏効果抜群の「ボレロ」、コジマ録音イチオシの「ラプソディ・イン・ブルー」 、最後に今年の公演のメイン「展覧会の絵」を収録することにした。
皆さんにも想像してみてほしい。5台ピアノの演奏においてはお互いの手元が見えづらいため(譜めくりが入るとなおさら)、視界が良好とは言えない。そして、5台ピアノで合わせ練習ができる会場など皆無であるため、実質会館入りしてからリハーサルをする間もなく直ぐにレコーディングとなること。そしてピアノ・ツィルクスの前回の公演から約1年半のブランクがあること。いくら熟達したピアニストだからといって、いきなりピッタリ合うようなことがあればそれは神の領域といって過言ではない・・・。加えて、生のコンサートであれば会場の響きに助けられ、少し縦がズレたとしてもあまり気にならないが、録音の場合、マイクが直にそれぞれのピアノの音を拾うため、少しでも縦がズレると明らかに分かってしまう。そして何と言っても心配だったのが、ピアノ調律である。ピアノは生き物でその日のコンディションによって音が変わるし、弾き続けるとピッチも狂ってしまう。しかしこれは簡単に予測できることではない。5台ピアノの場合、りゅーとぴあでは音に統一性をもたせるために一人の調律師に調律を依頼している。公演の調律だけでもかなり体力と精神を擦り減らす作業であるのに、より音程がシビアに求められるレコーディングではその大変さは何倍にもなるだろう。レコーディング前には、こんな高い壁が目の前に立ちはだかっていた。
限られた時間の中で全て録り切るという未知の挑戦はアーティストにとって相当なプレッシャーだったに違いない。少しでも効率よくレコーディングするために、経験豊富な録音ディレクターに相談し、ホール内で録り終えたばかりの音を直ぐに聞けるようにスピーカーを5人の奏者それぞれの前に設置してもらうなど、たくさんの工夫をしていただいた(通常は、モニター室と呼ばれる別室に移動して再生する)。
モニター室でチェックする様子
私のようなスタッフができることはごくわずかである。アーティスト、録音ディレクター、調律師という、職人の皆様に快適に過ごしていただくための環境づくり。そんなことしかできないがこれもまた大切なことだと認識している。
だんだんとレコーディング日程が近づくにつれ、私は一つの大きな問題を抱えていた。それは譜めくりストが5人見つかってないことである!5台ピアノの譜めくりは誰にでもできるわけではない。これまた、相当な神経を使う。そして、奏者は基本的にパート譜ではなくスコアを見て演奏するため、遠くからではとてつもなく見えづらい。レコーディングとなると譜めくりのノイズにも気をつけなければならないので、誰に譜めくりストをお願いするのか、は非常に重要。4日間の拘束となると、そう簡単には見つからないのが現実だった。周りの方々の協力もあって何とか譜めくり問題は解決したのだが、自分は少しこの譜めくり問題を甘く見ていたかもしれない・・・。
そんなこんなで2024年4月末スタートしたレコーディング。まず1日半かけてピアノ5台を調律。アーティストが会場入りしたら、まず、ピアノの位置を調整し、コジマ録音が機材をセッティング。最初は一番時間のかかる展覧会の絵から収録した。2020年の三重公演ぶりに演奏するということもあり、音楽づくりをしながらのレコーディングとなった。何度も録っては確認し、途中でピアノの調子が悪くなったら調律が入り・・・その繰り返し。追求しようと思えばどこまでも追求できてしまう際限のない作業だ。だからこそ、ディレクターに最終的な判断を任せる、そんな現場だった。コジマ録音の巧みなディレクションのおかげで、無事に録り終えることができた。文面で振り返ると淡白に感じられるかもしれないが、アーティスト・ディレクター・調律師のプロフェッショナルが結集し、一つのものをつくるために全集中した緊張感のある現場であった。
とはいえ、レコーディング期間は息抜きも忘れてはならない!休憩中に中川賢一さんと田村緑さんのバースデーサプライズを決行!ケーキを食べて力をつけ、レコーディングの活力に。
サプライズケーキ!
レコーディングが終わったあとは編集作業に取りかかる。この作業を担うコジマ録音のディレクターの大変さは計り知れない。第一次編集が7月頃に出来上がり、アーティストがチェック。気になる部分を書き出してもらい、それを踏まえて第二次編集へ。このやりとりを数回繰り返し、8月末に最終チェックの立ち会い編集となる。アーティストとコジマ録音のスタジオへ赴き、素晴らしい音響で全曲最初から最後までチェック。終わった後はみんなで記念撮影し、編集の労を担ったディレクターに全員で感謝!この日はチェックしたあと、CDブックレット掲載内容の最終確認も行った。
立ち合い編集の様子
最後はディレクターと記念撮影!
こうして遂に出来上がったこだわりのCD。お客様のお手元に届くのが待ち遠しくて仕方ない。
《つづく》
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