【シャンポーの森で眠る】日記 vol.9 メインキャスト・インタビュー
こんにちは!「シャンポーの森で眠る」ボランティアスタッフの神田萌子です!
9回に渡り、見どころをお伝えしてきたこの連載も、今回で最後!
この連載のタイトルを日記、と称したのは、実は、劇中に出てくる男(シルビネ)の記憶を辿るためのアイテムからでした。男は作曲家です。彼の持つ、作曲をするための創作ノートには、シャンポーの森での思い出がたくさんつまっています。
今までお届けしてきた稽古の様子も、公演が終われば全て思い出となっていきます。そんないつかの思い出を垣間見るイメージで、どうぞ最後までお付き合いください。
最終回は、この「シャンポーの森で眠る」のメインキャストの皆さんにインタビュー!作品の見どころを知るには、やはり創っている皆さんに聞くのがイチバン。それぞれの役についてはもちろん、今回も演劇の魅力について伺いました。
それではさっそく覗き見タイムスタートです!
ヒロイン・ファデット役 生越(おごせ)佳奈子さん
一一 よろしくお願いします! 稽古が進むにつれて、ファデットへ近づいているなと見ていて思うのですが、今までの自分と変わったと感じるところはありますか。
生越さん やっと台詞のことも考える余裕が出てきました。今までは動きで精一杯なところもあったけれど。意外と自由にやっていいんだなって。いつも毎回同じようにやっていて。だから今までは(言葉でなく)「台詞」になってしまっていると言われたこともあって……でも言い方は決められているわけではないと気づいたんです。その時に「言いたい」と思ったように言うことができると、言っている側としても楽しいし、お客様にも伝えることができるし、そういうところは変わったかなと思います。
一一 気持ちで台詞が言えるようになってきたということですね。ファデットになっていく過程で、 どんなことがありましたか。
生越さん ファデットが、誰にも話したことがない自分の生き方をランドリーに打ち明けるシーンがあって。ランドリーに打ち明けるのは、彼を好きだから。ランドリーだけは、自分のことを村のみんなのようにからかったりしないし、自分の生き方を分かってくれるって思っているから。だから、「ねえランドリー、私が今までどんなふうに育ってきたと思うの」という台詞がある、とご指導いただいて……はっとしました。
台本を読んだ時は、ただただ気が強い人だと思っていたんですけど……気が強いっていうのは、逆にファデットらしくない部分。本当はとても繊細で、弱いものに対して労われるところがある。だから、「シルビネにろくでなしとかいうのは、本当はファデットらしくない」とご指導いただいて、そこからは見方が変わりました。
一一 とても素敵な歌声をお持ちの生越さんですが、休憩中や稽古後にもメンバーと歌っている様子を見ると、歌が本当に好きなんだなと感じます。こんな風に伝えたい、という想いはありますか。
生越さん ボイスレッスンで、台詞を言う時も歌っている時も、息の吸い方だけでもいつもと違う表現ができるんだと学んで、今回でそういうところを意識できるようになったかも。ファデットは、「明日の朝、神様がいらっしゃるよ」のようにきれいめな歌も歌っているけれど、「約束は約束」なんかは全然違う曲調だから、そういうところでいろんな色が出せたらいいなと思いますね。
一一 ファデットの中に秘められた様々な面が歌に出ているんですね。生越さんにとって、演劇の魅力とはどんなものでしょうか。
生越さん 演じている側が、実際泣いていなかったとしても心で泣いていたりしたら、それがお客様にも伝わる……それができたらいいなと思っています。やっていて楽しいところは、シーンの中で生きることができるから、普段できないことを体験できることが楽しい。本番で、一緒に体験していただけるように、万全の準備をしていきます!よろしくお願いします!
準ヒロイン・マドレーヌ役 藤田カロリーナさん
一一 マドレーヌになっていくために、これまでいくつもの葛藤があったかと思いますが、どうでしたか。
藤田さん 自分の中に、マドレーヌが言いたいことや想いを、腑に落としていく作業が大変でした。台本を読み込みながら、いろんなことを言葉からイメージする。それが私にはとても難しくて。
どんなにマドレーヌのことを分かろうとしても、結局私は、マドレーヌの心を、完全に理解することなんて不可能だ、と笹部さん(りゅーとぴあ演劇部門芸術監督)にも言われて。その人がその時その場面で、感じたことなんて、他の人には分からないじゃないですか。だから、そういう気持ちを想像して、気持ちになるのは、おこがましい。だから、気持ちに寄り添うというか……一緒になって、その気持ちを受け止めてあげるような。そうできるといいんじゃないか、とご指導いただいたんです。
はじめは台詞を言う時に、いろんなことを考えながらやっていて、いまいち自分で何を言っているか分からなかった。だって、普段の生活の中で、「ここはこういう気持ちで言おう」なんて考えて言わないじゃないですか。でも宮川先生からあるご指導をいただいて……とても腑に落ちた時があって。それから、台詞を言うことが今までより苦しくなくなったんです。段取りや設定として誰に何を言いたいのか理解していただけだったのが、今自然とそう思うから勝手にからだが動く、というようになりました。
私はいつも設定を強く意識し過ぎていて。先生からも、「設定でいろいろと考えるのではなく、台本の文字を読んだ時に自分が受けた気持ちで考えていい」と。設定がこうだからここはこういう気持ちなんだ、と思ってしまうよりは、台本を読んで感じた気持ちを信じて、そこを深く掘り下げていく。この作品の稽古を通じて得たことはたくさんあって、今後別の舞台でもいかしていきたいところですね。
一一 なるほど、マドレーヌの一番の理解者が藤田さんなんですね。そんな藤田さんから見たマドレーヌは、どんな村娘ですか。
藤田さん 「女」だな、と思います!普段なるべくそういうところを隠して生きているけれど、出す時には出す。若さゆえの恐さもあるんですけど、でも分かるなというところはありますね。青春だな、という感じだなと思います!……恥ずかしくなってきちゃった(笑)
一一 ソロでの歌が2曲ありますよね。
藤田さん そうですね、やっぱり一番の見せ場は、そこだと思うんですけど。ソロに行き着くためには、それまでの過程がとても大切だから、過程を丁寧に丁寧にやっていけば、最後は自然に歌が歌えるかなと思います。「秋になれば」は、前作を観て憧れて日常でもよく口ずさんでいた歌で……でも、改めて自分が歌う曲になってから、この曲の難しさに気づきました。
歌もお芝居だから、台詞を言うように歌を歌うべきだと思うんです。ミュージカルで歌を歌うのは、気持ちが膨れ上がって、普通の台詞では足りないから歌になってしまった……というのが私の解釈なんですけど。でも実際、そうやって歌が歌えたらいいなと。それを目指しています。
一一 藤田さんにとっての演劇の魅力とは?
藤田さん お芝居をすることは、特別難しいことではなくて。普段の人間をやるだけ。その世界にいる人を、たまたま私がやるだけ。台詞も、誰もが持っている気持ちを言っているだけだから。台詞ではなくて、「言葉」なんです。特別感があって避けてしまっている方には、ぜひ一度観てほしいし、演じてみてもいいなと思う。とても楽しい作業だし、みんなで一つのものをつくるということも楽しいし、だからこそ私はいくつになっても舞台から逃げられないんですよね。言葉で表せない気持ちが、歌に、音になってしまう。演じる側がそうできたら、お客様にも何か感じてもらえるかなと。
一一 では藤田さんなりの「シャンポー」の魅力とはどんなところでしょう。
藤田さん 台本(物語)があって、音楽があっての「シャンポー」というか。宮川先生の音楽と、岡本先生の詞が素晴らしい。それが「シャンポー」の世界をつくっているので、その世界観を大切に、自分も重力にのせて演じていきたいです。
ランドリー役 大羽賀岳さん、シルビネ役 佐野晃太さん
大羽賀岳さん(左)と佐野晃太さん(右)。稽古着も雰囲気も似ているお二人は、まるで本物の兄弟のよう!
一一 ファデットを中心にして、双子の運命というか、佐野さん演じるシルビネの記憶を辿っていく物語な訳ですが、ランドリーとシルビネはそれぞれ、どんな男の子なのでしょうか。
大羽賀さん ランドリーは、お兄ちゃんのシルビネのことが大好き。お母さんのこともお父さんのことも好きで、家族想い。お兄ちゃんの繊細な部分も分かっているから、声には出さないけど、弟ながら兄を守ってあげるような優しさがある男の子かなと思います。
佐野さん シルビネは、とにかくわがままで、感情で動いてしまう。作中でも、行き過ぎた感情によって、生と死の境で辛うじて生きているんです。自分がしたことで苦しむことになっているから、自分で作った穴にはまっているような感じ。
一一 お互いのことは、役としてどう思っていますか。
大羽賀さん 一言で言ったら、大好き。大好きだからこそ、繊細な部分が見えてくると守ってあげたくなってしまう。そこに責任を感じたりするのかな。弟だけど、お兄ちゃんの弱い部分を支えてあげることが兄弟の中で自分の役目なんだと。
佐野さん 自分の中に理想のランドリーというのがいて。その理想通りのランドリーでなきゃ嫌だ、みたいな。ランドリーのことが好きすぎて、自分のことだけを見てほしいと思っていて。でも作中では、ランドリーと気が合わない部分が多いんですよね。
一一 性格的な面では正反対の二人でも、お互いのことが大好きなところは同じなんですね。大羽賀さんは、APRICOT(りゅーとぴあ演劇スタジオ キッズコース)に所属しているそうですが、佐野さんは、演劇は初挑戦と伺っています。
佐野さん 想像していた雰囲気とは違って。もっと厳格な感じなのかと思っていました。オーディションの時から、みんなフレンドリーで。周りの人と話したりしていましたね。僕はみんなと話せるようになったのはここ最近なんですけど。
大羽賀さん 先生によっても違うのかも。APRICOTの時から戸中井さん(演出)にお世話になっているんですけど、いつも和気あいあいとした現場で。戸中井さんも、「かしこまった雰囲気よりは、いい意味で気が緩んだ状態の方が、自分を解放できるから稽古がしやすい」とおっしゃっていました。
一一 お客様にぜひ見ていただきたいというシーンはありますか。
大羽賀さん 時間の流れが行ったり来たりする舞台なので、時間の流れには注意してみてほしい。特に、どこを注目してほしいとかでなくて、脚本から音楽から偉大な方々がつくられた作品なので、観るだけで贅沢な舞台かなと思います。
佐野さん 曲がメインで、曲に注目してもらいたいなというところはもちろんあるんですけど……あるシーンでの、僕の命懸けの叫びをぜひ聞いてほしいですね。今日もそのシーンをやった時、手足と舌が痺れて……本当に、死ぬ気でやっているんです。シルビネの心の叫びに、注目してもらえたら。
一一 お二人にとって、演劇とはどんなものでしょうか。
大羽賀さん 非現実の世界です。現実で、魔法使いになりたいと言ってもなれないじゃないですか。魔法が使えるわけでもないし。でもそういう、現実でできないことに挑戦できたり、普段できないことを体験できたりする場所かな、と思います。普段とは違う自分を見つけられる場所。
佐野さん 2時間少しの本番のために、半年もの時間を掛けてきました。劇中の役者の動きや一つひとつのものは、長い時間を掛けてやっとつくってきたものです。観る側もやる側も、その時間やつくり手の想いまで感じられると、より心に残るのかなと思います。
あとがき
これまで、「シャンポー」の魅力とともに、演劇の魅力について深掘りしながら、見どころをご紹介してきました。
わたしにとって演劇は、終わりのないもの、です。舞台は決まった期間で行われますが、作品というものは、追求すればいくらでもかたちを変えて行くことができます。
「僕の思い出のすべてがつまった」「組曲『シャンポーの森で眠る』は、未完成のまま終わりを告げる」。(劇中台詞より)
今回の「シャンポーの森で眠る」は、本番が終わればおしまいです。鬼火や村人、登場人物たちは、シャンポーの森で再び眠りにつくのです。いつかまた本を開く時まで。それでも、観に来てくださったお客様、関わった全てのキャスト、スタッフの皆さまの心の中で、ずっとずっと想いは生き続ける。だから演劇は、誰にとっても終わりがないものだと、わたしは思います。
スタッフやキャストが稽古で紡いできた、きらきらとした想いを、お客様に受け取っていただけますように。連載はこれで最終回となります。これまでお読みいただき、ありがとうございました。シャンポーの森で、再びお会いしましょう。
「シャンポーの森で眠る」(2018) ボランティアスタッフ 神田萌子