25年が過ぎて見つけた25の話 #6~#8
「25年以上の長きにわたり、建築の存在価値を発揮し、美しく維持され、地域社会に貢献してきた建築」を顕彰するJIA25年賞の表彰式に参加したとき、施工者宛ての表彰状を預かってきました。ここで言う施工者とは、鹿島建設をはじめ6社で構成した共同企業体(JV)のことです。この表彰状をJVの第一工事課長だった仲山博さん(当時の所属:鹿島建設株式会社)にご覧いただきたくて報告にあがりました。
今回の『25年が過ぎて見つけた25の話』は、仲山さんから伺った建設工事の話題です。設計図を基に立体的な建築を作り上げる建設工事には様々な技術が用いられますが、今回のインタビューをとおして、あらためて仲山さんの知識、情報量の多さに驚きました。建築に関心がある方へ、そしてりゅーとぴあファンの皆さまへ、たまご型でガラス張りという唯一無二の建築を作り上げたエピソードを紹介します。
仲山博さん
#6 ガラス工事
りゅーとぴあは、2階から5階の高さまでがガラス張りです。具体的なガラスの数は知りませんでしたが、鹿島建設のホームページにこの情報が掲載されていることを仲山さんから聞きました。コンサートホールホワイエ側の2m四方のガラスは1,278枚、劇場ホワイエ側の1m×2mのガラスは1,362枚です。
2,600枚を超えるガラスはどのように付けたのですか?
「ガラスはハイクライマーという外国製の移動式昇降足場を使用して取り付けました。この建物のために特別な治具(※1)を製作しパラペット(※2)の立ち上がりにつなぎをとって安定させ、下の方の駆動が付いているタイヤで移動します。建物の高さが異なります(劇場側からコンサートホール側へ傾斜している)が、高さを変える機構も付いています。」
※1 治具(ジグ) 道具、しくみ
※2 パラペット:外壁と屋上の境にある立ち上がりの部分
ハイクライマー(撮影:仲山さん)
パラペットにつなぎを取る治具(撮影:仲山さん)
25年が過ぎて見つけた25の話 #6 約2600枚のガラスは”ハイクライマー”という重機で取り付け、りゅーとぴあの工事のために製作した治具を用いた。
#7 ドットポイントグレージング(DPG)
ガラスを支える金具であるドットポイントグレージング(DPG)は、4点で支える形になっています。台風や暴風雪、地震に見舞われても26年間無傷で耐えています。
「DPGは当時はあまりありませんでしたし、そのうえダブルスキン(二重)は世界で初めてでした。しかも全体に弧を描いていますので、工事のなかではDPGの施工が一番難しかったですね。」
「DPGは中に3組の皿バネが入っていてテンション(張力)がかかっています。このテンションが強風に耐えて、地震では揺れに追従する仕組みになっています。実物を取り付ける前に、三重県にあるガラス工場の敷地内に実物大で組んだDPGを震度7相当で揺らす実験をしました。揺らしたあともガラスに異常はなく、安全を確認できました」
DPGを実験する様子(撮影:仲山さん)
25年が過ぎて見つけた25の話 #7 ドットポイントグレージング(DPG)の中には皿バネが組み込まれていて、強風に耐えたり地震でガラス同士がぶつからない働きをしている。
#8 鉄骨工事
共通ロビーは天井が高くて大きな空間になっていますが、どのような構造になっているのですか。
「共通ロビーの東側と西側でバランスを取るように鉄骨が組まれています。コンサートホールがSRC造(鉄骨鉄筋コンクリート)で造られていて、これが核になっています。」
(撮影:仲山さん)
「この写真は鉄骨の梁がつくところです。この状態でガラス脇の柱がありません。鉄骨で跳ね出したところまで構造的には成り立っていて、まさにやじろべえの造りになっています。だから基本的にはガラス脇の白い柱には荷重をかけないような設計です。浮いてはいないので多少の荷重はかかりますが、荷重を全部載せるような構造ではありません。」
25年が過ぎて見つけた25の話 #8 屋根はコンサートホールを中心に共通ロビーの東側と西側が釣り合った構造になっている。
なぜこのような構造にしたのでしょう。ガラスに力が掛からないためでしょうか?
次回につづく
追記
平成7年8月から平成10年春までの工事写真をスライドショーにした動画を公開しています。更地から建築が立ち上がる様子をぜひご覧ください。
『25年が過ぎて見つけた25の話』アーカイブ
#1 ロゴマーク
#2~#5 設計編