25年が過ぎて見つけた25の話#9~#11+α
前回に続いて仲山博さん(当時の所属:鹿島建設株式会社)から伺った建設工事のエピソードです。屋根はコンサートホールを中心に共通ロビーの東側と西側が釣り合った構造になっています。なぜ、このような構造にしたのでしょうか。
#9 ガラスに面した柱
「ガラスに面した所で大きなもの、太いものを見せたくない、という設計の意図があります。だから、ガラスに面した柱(上の写真)はできるだけ絞ってスレンダーになっています。この柱は中身が空っぽ、中空になっています。鉄骨ですが中空なので軽いです。もし、これが屋根を支える柱とするなら、鉄骨の柱の中にコンクリートを埋める方法(CFT造)になりますが、この柱は中空ですから荷重を受けるような柱ではありません。」
このお話は、「#5 2階共通ロビーは公園の延長のような空間。」からつながっていますね。今までの話を整理すると、
・公園からロビーまでをつなげて、公園のようなロビーにする設計
・建物の内外を一体的に見せるために、その境にある柱は細くしなければならない。
・屋根はコンサートホールの壁が支える構造として、細い柱にはほとんど力がかかっていない。
25年が過ぎて見つけた25の話 #9 ガラスに面した白い柱は中空で軽い
#10 ドットポイントグレージング(DPG)その2
25の話#7で、”ダブルスキン(二重)のDPGは初めてだったので、この施工が一番難しかった”ということですが、他にもエピソードはありますか。
「まだまだありますよ。この話は尽きないです。オーニングも世界で初めての事例です。オーニングは、開ければ外光を取り入れ、閉めれば外光を遮ります。この操作によって室内の明るさや温度を調整します。オーニングのシートはアルミニウムでシートに穴が開いていて穴の開度を調節できます。オーニングの巻き取り装置を設置する工事では張り出した足場を設けました。クレーンで持ち上げる際は、専用の治具を用意して巻取装置と反対側におもりをつけました。所定の高さまで上げて、上空で回転させる、という方法で設置しました。」
「たまご型は三種類の曲率で構成されています。信濃川側は径が短い弧、共通ロビーのあたりは最も径が長い弧、劇場、能楽堂のあたりはその中間になっています。曲率がかわる点はDPGが斜めに吊られています。これにより、水平方向に張っているロッド(ステンレスの棒)の引張力を上部の部材に伝達しています」
この部分ですね(写真)。DPGを斜めに吊っているとは知りませんでした。
25年が過ぎて見つけた25の話 #10 外観の一番高い位置に見える斜めのバーはたまご型の曲率の変わるポイントでDPGを斜めに吊っている。
#11 基礎工事
平成8年2月の状況
この写真は、どのような工事をしたのですか?
「これは掘削工事です。ここの地盤は1m掘ると水が出てきますので、シートパイルという工法で常に水を抜いていました。エネルギー棟(設備用の部屋)の壁をつくるために3~4mほど掘るのですが、このときボイリングが起きました(※ボイリング:地下水が引き切れていない場所で砂が沸き上がる現象)。ボイリングは建築の教科書に載っていますが、生で見たのは初めてでした。幸い、近くに大きなマンホールがあったので、排水する場所には困りませんでしたが、一方的に水を抜けば良いというものではありません。周辺の水位を安定させ地盤沈下を防ぐためには、汲んだ水を戻さなければなりません。これをリチャージ工法といいます。このあたりの地下水は白山公園の池とつながっているので、池の水位が若干下がることはありました。」
杭工事(撮影:仲山さん)
「これは杭工事です。リバースサーキュレーションドリルとアースドリルという2種類の工法で行いました。リバースサーキュレーションは、土と水を一緒に吸い取る工法です。アースドリルはエネルギー棟付近で使いましたが、掘り進めている途中で大きな石がたくさん出てきて止まってしまいました。石を砕く工法に変更して切り抜けることができましたが、たいへんでした。昔ここは信濃川でしたが、ネットに石をつつんで護岸に沈めるようなことを昔の人が行い、新潟地震で沈下したものがこのときに出てきたのだと思います。」
25年が過ぎて見つけた25の話 #11 りゅーとぴあの敷地の奥深くには昔の川の名残である石が埋まっている
今回は本当にたくさんの話が聞けましたので、この他の話を短編で綴ります。
#α1 コンサートホール天井
天井自体は石膏ボードで振動しないような厚みがあります。また、スリットの部分は、石膏ボードではこの形に加工できないため鉄板を採用したそうです。鉄板だけでは冷房時に結露してしまうので、結露防止塗料「ケツロナイン」が塗られているとのことでした。
#α2 ラポルトすず
石川県珠洲市に「ラポルトすず」という文化施設があります。ラポルトすずとりゅーとぴあにはいくつか共通していることがあります。
▶設計者、施工者がりゅーとぴあと一緒。 設計:長谷川逸子さん 施工:鹿島建設・仲山さん
▶ガラス張り…ただし、りゅーとぴあは平面ガラス、珠洲は曲面ガラス!だそうです。曲面のガラスは専用のベッドをつくり熱いガラスをベッドの上で成形するとのこと。すごい技術ですね。
▶真ん中で全体を支えて周りは細い柱…能登半島地震でも無事だったそうです!いつか見てみたいです。
なお、鹿島建設のホームページ「KAJIMAダイジェスト」に仲山さんの解説が載っています。
#α3 仲山さんの思い
前述の「KAJIMAダイジェスト」の文末に
>建築的に高度な技術を要する,未経験の構造物をかたちにする――。その難題を解決するための努力を楽しむこと,それが“ものづくり”の醍醐味なのだろう。
と締めくくられていますが、今回のインタビューで同じことを思いました。
仲山さん「りゅーとぴあ建設のあとは、デンカビッグスワンスタジアム、HARD OFF ECOスタジアム新潟、ウイング・ウイング高岡、そしてラポルトすずの建設に携わりました。偶然にも、すべて公共施設なので、コンサートを鑑賞したり、サッカーの試合を観戦したり、観客として施設に入れるんですよ。そして、建築の状態をチェックしてしまうのです(笑)」
これは私なりの表現ですが、建築への愛にあふれた言葉だと思いました。難題に立ち向かい、苦労を乗り越えて、その過程を楽しめる。そして完成したあとも施工者の視点で建物を見てしまう・・・まさに、独り立ちした子どもの平穏無事を祈る親の気持ちのようです。仲山さんにとってのりゅーとぴあは、大きくなって手が離れてしまった子どものような存在なのでしょう。どうか、これからも温かい目で見守ってください。
おわり
『25年が過ぎて見つけた25の話』アーカイブ
#1 ロゴマーク
#2~#5 設計編
#6~#8 建設工事編