Special interview アンドリュー・マンゼ(前編)
いよいよ11/16(水)に開演となる、NDR北ドイツ放送フィルハーモニー交響楽団。本場ドイツの第一線で活躍するオーケストラの演奏を、ここ新潟で聴くことのできる特別な機会がやってきます。長くオーケストラとともに歩んできた首席指揮者の名匠アンドリュー・マンゼにお話を聞きました。
ツアーの曲について
ー今回、多くの公演がオール・ベートーヴェン・プログラムになっています。このプログラムの魅力やマエストロにとっての思いをお伺い出来ますか?マエストロにとって「ベートーヴェン」という作曲家は、どのような存在でしょうか。
M(マエストロ・マンゼ以下M):私にとってベートーヴェンは最も偉大な作曲家の1人です。同時にNDR北ドイツ放送フィルハーモニー交響楽団(以下NDR)と共に取り組んだ最初の作曲家でもあります。私が首席指揮者に着任した時、最初にオーケストラに「まずはベートーヴェンの交響曲を全曲やろう!」と言い、最初のシーズンにそれを実現し、その後もずっと共にベートーヴェンを演奏してきました。ベートーヴェンは私にとってとても大切な存在です。私は音楽が大好きですが、それがベートーヴェンのおかげだと言っても過言ではないのです。幼い頃、ベートーヴィンのエロイカ(英雄)交響曲をよく聞きましたが、本当に大好きでした。先程もお話ししましたが、ベートーヴェンは私と私のオーケストラとの友情を築いた重要な存在ですが、今日のクラシック音楽界においても欠くことの出来ない存在です。ベートーヴェンは本当に素晴らしい作品の数々を作曲し、今日に至っても人々はそれを聴きたいと言う気持ちにさせられます。でも聴きごたえのあるものを聴くためには良いオーケストラが必要です。つまり、ベートーヴェンこそが良いオーケストラを生み出した、オーケストラを成長させた、とも言えるのです。ですから私はベートーヴェンに深く感謝していますし、ベートーヴェンはまさにクラシック音楽界に多大な貢献を果たした存在なのです。ベートーヴェンの存在なくしてハノーファーに管弦楽団は存在しなかったかもしれないし、こうして日本に伺うことだってなかったかもしれませんね。今回は過去の訪れた地だけでなく、大阪・堺の新しいホールや初めてとなる新潟での公演があります。そのような出会いも生みだしてくれたと言ってもよいのではないでしょうか。
(C) NDR, Foto N. Lund
交響曲第3番「英雄(エロイカ)」について
ーマエストロも何度も演奏されたことがある交響曲第3番「英雄(エロイカ)」を演奏されます。マエストロが思うこの曲についての魅力や聴き所をお教えください。
M:確かに度々指揮をしてきました。そして数ある交響曲の中でもお気に入りの作品です。さらには、日本においては過去にNHK交響楽団でこの作品を指揮しました。本当に素晴らしいオーケストラで、素晴らしいひとときを過ごしたのをよく覚えています。では、交響曲はどのようなものか、と言えば、音楽史において非常に重要かつ、素晴らしい音楽作品だと言うことです。第7番同様、聴いていて本当に面白い交響曲です。この作品を通して、ベートーヴェンは西洋におけるクラシック音楽を大きく一歩先に進めたのです。古典時代のハイドンやモーツァルトは美しく、完ぺきなまでの世界を築きましたが、そこからさらに先に歩を進めたのが、ベートーヴェンであり、この作品にそれを見て取ることができるのです。彼はロマンティックで、勇気があり、さらには我々に問いかけてくる音楽を作曲しました。「音楽とは何か?」と言ったことに留まらず、「世界はいったいどういったところなのか?」といった問いかけです。とても政治的な交響曲と言えます。彼は政治的な決意とその表明をしました。私たちは厳しい管理のもとにある世界に住んでいるが、世界は変われるのだ、変えられるのだ、私たちは自由なのだ!と。そうです、この音楽は私たちが自由であることを歌っているのです。例えば今生きている社会にルールがあるのなら、彼はそれに対してNOと言っています。NOと言う自由が我々にはあるのだと言っているのです。この交響曲の前半で、音楽が突然止まり、オーケストラがパニックになったかような状態になります。オーケストラの半分が演奏するメロディに対抗するように残りの半分が異なるメロディを演奏をし、調性があたかもぶつかり合うような、そんなカオスのような状態を私たちは聴きます。異なるアイディアの衝突です。ここでベートーヴェンはたとえカオス状態に陥っても解決策は見出されるのだとここで私たちに示しているのです。この英雄交響曲が登場するまでは、人々は音楽を聴いて、「素晴らしい」とか「美しかった」と感想を述べましたが、英雄交響曲を聴いた後に人々は「驚くべき、素晴らしい音楽だ、今私には世界が異なって見える。」「考え方が変わった。人々に対する考え方が変わった」と、感想を述べるようになったのです。ですからこの交響曲は本当に重要な交響曲なのです。
インタビュー 中編 につづく