「チェコ・フィルのどこがいいの?」という人のためのスタッフトーク
♯総合企画マネージャーと話してみた 第1弾
「チェコ・フィルのどこがいいの?」という人のためのスタッフトーク
とある昼下がり、10月30日開催「チェコ・フィルハーモニー管弦楽団」の演奏会について、りゅーとぴあ総合企画マネージャーの榎本広樹と、音楽企画課スタッフが語り合いました。
話すうちに4つのキーワードを発見。チェコ・フィルの演奏には「随所に歌がある」「演奏は極上の地酒の味」「ドヴォルザークの秘曲」「藤田真央さんの裏話」。
演奏会に行こうか迷っている方、ぜひ参考にしてみては?
チェコ・フィルの演奏には、随所に歌がある
中粉:ビシュコフがチェコ・フィルを連れて日本に来るのは2回目なんですよね。
榎本:私1回目のとき聴いたんだ。
中粉:いつですか?
榎本:コロナ禍になる前に文京シビックで「新世界より」を聴いて。弦楽器のチェロとかコントラバスの何気ない刻みとか、刻みから上がっていくところとかに、歌があるの。
中粉:随所に歌がある、という感じですね。
榎本:そう、随所に!全編歌があってすごく良いの。ドヴォルザークってヴァイオリンに美しいメロディ書くじゃない?そっちに耳が普通だったらいくのに、もうチェロとかコントラバスの歌が素晴らしくて、思わず耳がそっちに引っ張られる。だから、どの瞬間をとっても、どのように切り取っても、そこに歌がある。本当に素晴らしいオケだと思って「あ、私がこの10年間に聴いた全ての“新世界より”を捨てていい。この演奏さえあればあとは捨てていい」って思った。ひどいこと言ってる(笑)。でもそれくらい良かった。
中粉:この前りゅーとぴあで開催した「読響」の公演の時に、コバケンさんとビシュコフの音楽作りの仕方が似てるっていう話を聞いて。それ納得したのが、コバケンさんも結構チェコ・フィル振っていますよね?
榎本:振ってる!振ってる!
中粉:その音楽作りとかが、オケのキャラクターと合っているんですよ。持ち味を発揮するのに、指揮者をちゃんとオケが選んでキャスティングしているんだなと思って。
榎本:なるほどね。
演奏は極上の地酒の味
中粉:ヨーロッパなんて街ごとにオーケストラがあるじゃないですか。
榎本:数万人の街にはオケがあるってのは当たり前。特にドイツなんかは。
中粉:そうですよね。文化に関する行政の権力がそれぞれの街に与えられているっていうところで、それぞれの街の劇場にオケがくっ付いている。日本ではまずない。全然もう、根っこが違うから、そういった意味で数多あるオーケストラの中で脈々と受け継がれたキャラクターっていうのをしっかり出して演奏しているんですね。
榎本:極上の地酒の味っていうか?
中粉:そうそうそう!(笑)
榎本:地酒の味がしっかりと。
中粉:ずーっとこう創設以来ずっとやってきたんだなって歴史を感じるなって。その歴史が今回新潟で聴けると。
榎本:チェコって弦の国って言うじゃない?チェコ・フィルの魅力って、その弦楽器の魅力を磨き上げて磨き上げて大吟醸みたいにして、ユニバーサルな、世界的な価値まで高めたのがチェコ・フィルのトーンだと、私は思うんだよね。なので、管楽器はじゃあ下手かって言うと決してそんなことはなくて。チェコ・フィルの管楽器ってのは、派手さはアメリカのオケみたいなギラギラするような魅力はないじゃん。
中粉:ないですね。
榎本:むしろ渋くって、ひなびていて、ニューヨークの摩天楼とかシカゴの大都会のような響き一切なくって。でもチェコのその土の香りっていうんですか?が、してくるのがチェコ・フィルの滋味あふれるって言うんですかね?土地の豊かさみたいのを感じさせる。だからあれだよね!ファストフードじゃ決してないんだけど、地元の美味しい料理って感じはするよね。
中粉:ファストフードでもないし、高級フルコースって感じでもないし。
榎本:そこまで洗練されてはいない。
中粉:そう!(笑)味のいい郷土料理。
榎本:味のいい最高の郷土料理。福島に行ってわっぱ飯を食うみたいな。そういう感じじゃない?
中粉:凄く分かる(笑)。
ドヴォルザークの秘曲
中粉:今回ドヴォルザークプロということですが、このオケの創立公演を振ったのが、ドヴォルザーク本人なんですよ。
榎本:そうなんだ。
中粉:やっぱ特別ってことですよね。もうお家芸ですもんね。
榎本:アイデンティティそのものだよね。オケがこれこそ我らのドヴォルザークだ、これこそ我らのアイデンティティだっていうドヴォルザークの8番とピアノコンチェルト、しかも藤田真央でしょ?で、ドヴォルザークの序曲「謝肉祭」。これさ、いい演奏にならない訳がない!
中粉:私、前にちょっと雑談ときに「8番と9番の境」の話をしたじゃないですか?やっぱりチェコの作曲家としてのチェコでの集大成がこの8番。これを経て新世界アメリカに渡る。やっぱこれはチェコの作曲家ドヴォルザークとしてのまとめとしての「交響曲第8番」なんですよ。
榎本:比べて聴けばさ、第8番の方が土の香りが濃いよね。冒頭の弦楽器の響き、第3楽章のちょっとメランコリックな旋律。ある作家の人はさ、「駆け落ちするならプラハへ」って書いている人がいるらしいんだけどさ(笑)。今出典が思い出せないんだけど。
中粉:わははははははは!
榎本:「駆け落ちするならプラハへ」というのがそのまんま思い浮かぶようなメランコリックな3楽章があってさ。で、4楽章あれ、村祭りだよね?「まーつーりだー!はーじまーるよー!」っていうファンファーレが入るわけじゃない?で、人々が三々五々集まってきて集まったところで祭りが始まる。最後のところなんて祭りのフィナーレ。泥臭い。
中粉:どんどん速くなっていってね。
榎本:何ですか最後あの下品なホルンのベルアップのドゥルルルルルルとかいって!(笑)あれなんかさ、洗練されてないよ。洗練されてないところのドヴォルザークの地酒の美味さってのはそこにある気がする。
中粉:地酒の美味さ、郷土料理の美味さ(笑)
榎本:第8番に尽きると思うね!
2023/10/30開催「チェコ・フィルハーモニー管弦楽団」
中粉:今回曲目解説を書いていたんですけど。
榎本:当日お客様にお配りするやつね。
中粉:ピアノ協奏曲を調べようと思ったんですよ。ピアノ協奏曲って演奏されてないじゃないですか。全くといっていいほどに全然演奏されない。
榎本:だっれも演奏してない!
中粉:誰も演奏してないし、あったんだそんな曲ってくらいに(笑)。やっぱりヴァイオリン協奏曲とか一番有名なチェロ協奏曲の陰に隠れてやられてこなかったし、演奏もCDでもあんまり聴かない。今回ちゃんと聴かなきゃと思ってCD聴いていたわけですよ。いざ曲目解説を書こうかなと思って、ある程度曲に対する基礎情報を調べるんですけど、有名な楽曲解説本とかを開いても…
榎本:載ってない!(笑)
中粉:載ってないのこの曲!(笑)
榎本:ドヴォルザークの秘曲だね!(笑)
中粉:ドヴォルザークの作品一覧っていうページに、この曲が入ってなかったんですよ!
榎本:まじか!
中粉:あれ!?ピアノは!?だから、え!?と思って(笑)。でも曲聴くと凄いきれい。いい曲でした。凄くいい曲!何でこれが今まで演奏されてこなかったのか不思議なくらい。
とある方がコラムで書いていたのが、ドヴォルザークの他のピアノ作品の中でも、このピアノ協奏曲は非常に評価が高いって。でもそれは分かるなと。終始きれいでした。これ藤田真央さんの演奏で聴けるんだと思うと、ちょっとわくわくしています。
榎本:ドヴォルザークはこの協奏曲、作品番号33って書いてあるけど、わりと若い時だよね?だから功成り名を遂げた大作曲家ドヴォルザークではなく、大家のドヴォルザークではなく、もっと壮年、ひょっとしたら青年の煌めきとか。
中粉:「スターバト・マーテル」を作曲したくらいの時期なんですよ。
榎本:あー、そうなんだー。でも作曲家としてはもう技術とかノウハウはだいぶ固めたけれども、まだまだそんなに世にチェコ音楽の大家として認められているところまではいってなかった時期かもしれないね。
中粉:そうですね。「スメタナが亡くなってあとは俺しかいねぇ」みたいな時期よりはもうちょっと前。調べると、自分の子どもをたて続けに亡くしている時期らしくて。でもその悲しさとか日常生活の苦しさが作品へ昇華していって、いいものがバンバン生まれていた。その時期のピアノ協奏曲。だからパーソナルな物語も入っているし、背景もあるし。有名になったチェロやヴァイオリンの協奏曲よりも前に書かれているんで、そういうものの礎になった。これは今回の演奏を聴いて、この曲のファンになってほしい。ファン増えてほしい。もっと演奏機会絶対にあっていいと思う!
榎本:それだけの価値がある曲だと。
中粉:きれい。とにかくきれい。
榎本:あら、楽しみですね。
中粉:清らかになりました。心が。
榎本:俺、CD持っているけど生で聴いたことないからね、これ。
中粉:私CDすら持っていませんでした(笑)
榎本:管弦楽オタクのあなたが、お持ちでなかった?(笑)
中粉:それだけやっぱり珍しい。隠された名曲だと思いますよ。
榎本:まぁ藤田真央さんだったら変な演奏には絶対にならないっていう安心がありますよね。
藤田真央(ピアノ)
藤田真央さんの裏話
中粉:藤田真央さんはりゅーとぴあ登場2回目ですね。2020年のコロナ禍最初の年にリサイタルで来ていただいたんですよね。
榎本:私その前に藤田真央さんを東京交響楽団のサントリー定期で珍しいコンチェルト聴いたんだよ。確かジョリヴェかなんかのピアノコンチェルトを聴いて。その日は他の用もあったので、彼のジョリヴェのコンチェルトを聴いて休憩の所でサントリーホールを出なきゃいけなかったんだけど、演奏がとにかく素晴らしくて。何が素晴らしいかと言うと喜びに溢れているんですよ、彼の音楽っていうのはね。モーツァルトとか聴きたなって思ったくらい天真爛漫な感じがして。まだモスクワのコンクール入賞する遥か前。素晴らしかった。でも彼はまだ若かったから、ステージに出てくる時もほんと天真爛漫な感じがしてね。で、そのあと2020年、リサイタルの時ってベートーヴェンの記念イヤーだった?
中粉:そうですね。
榎本:りゅーとぴあとして新潟のお客様にベートーヴェンの記念イヤーとして何か贈るプレゼントが出来ないだろうかと思った時にコロナ禍になってしまって。海外からはとてもピアニスト入ってこないっていうので、日本人の3人の若手のピアニストでベートーヴェンの3大ソナタを弾き分けてもらおうと。で、彼には何を弾いてもらったんだっけ?
中粉:ピアノソナタ第8番「悲愴」です。
榎本:悲愴か!「熱情」は松田華音さん。「月光」は牛田さん!牛田智大さんの「月光」、松田華音さんの「熱情」で、「悲愴」を藤田真央さんにということで引き受けてもらって連続リサイタルを開いたんだ。奇しくもね、牛田、松田、藤田と「田んぼシリーズ」になったんだ(笑)。でもそのりゅーとぴあとしてベートーヴェンの記念イヤーに新潟のお客様にベートーヴェンの3大ソナタ弾き繋いでもらおうと思った時に、藤田さんどうしてもお願いしたいと思って来てもらったんだよね。
中粉:コロナ禍真っ最中っていうか、ほんとに流行り始めて初期の頃、軒並み演奏会がなくなっている中で開催をして、その中でも一定数のお客様が来てくださって、非常にいい演奏だったと、より鮮明に記憶が残っています。
榎本:その中でもいい演奏会を作ることができたっていう喜びが、手応えがあった。
中粉:その時から考えれば、飛躍の凄さというか、もう世界的ピアニストですよ!
榎本:モスクワで2位になったのって2020年の夏とかのことでしたっけ?
中粉:もうちょい前じゃないですか?確か2019年。
榎本:もうちょい前か。でも、りゅーとぴあがリサイタル開催を決めたあとで彼がコンクールで上位入賞して脚光を浴びて。りゅーとぴあでのリサイタル全部終わったあと、舞台の下袖で「藤田さんまた来てくださいね。私たちは藤田さんがモスクワで上位入賞したからこのリサイタルを決めたんじゃない。その前にあなたの演奏が素晴らしいと思ってこのリサイタルを決めているんで、我々にとっては藤田さんがコンクール上位入賞ってのは全然関係ありませんから」って言ったら彼が、「嬉しいですねー!またぜひ伺いたいです」って言ってから帰ったんだ。
中粉:そんな藤田真央さんの裏話が(笑)
榎本:今回こうやってね、コンチェルトのソリストでお招きできて本当に幸せに思いますね。
中粉:前回はリサイタル、今回はソリストとしてまた違った味。ご本人のピアニストとしての格もここ数年かなり上がっていますから、同じりゅーとぴあで聴けるっていうのが楽しみですよね。
榎本:しかも、相手がチェコ・フィルですからね。
中粉:いやー、凄い。そして知らない協奏曲!(笑)
榎本:でもきれいなのでしょ?
中粉:きれい!めちゃくちゃきれい。
榎本:もうこれは聴きものですわ。