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金巻屋社長インタビュー「お菓子で希望をつくりたい」【前編】

金巻屋社長インタビュー「お菓子で希望をつくりたい」【前編】の画像

今年初め、能楽堂を飾った「【日本全国 能楽キャラバン!】宝生流特別公演~高砂~」来場者全員プレゼントの和菓子を製作していただいた新潟・上古町の老舗「美豆伎庵 金巻屋(みずきあん かねまきや)」さん。2021年2月公演「能楽堂で楽しむ雛まつり」に引き続き2回目のコラボレーションということで、社長の金巻栄作(かねまき えいさく)さんに今回の和菓子をつくった時のお話をりゅーとぴあ能楽担当スタッフ(O)が伺いました。

あかるい未来につながる、希望が持てるようなお菓子を届けたい

りゅーとぴあ能楽担当スタッフ(以下スタッフO) 今回もすてきなお菓子をありがとうございました。すごく好評でした!今回は試作の段階で4案も作ってくださいましたが、作った時のお気持ちをぜひお聞かせください。

金巻栄作さん(以下金巻さん) りゅーとぴあにご来場される大事なお客様ですので、皆様に喜んでいただける和菓子は何かを一番に考えていました。

お客様も芸に携わる方も劇場も、本当にこの新型コロナウイルス禍で大変な思いをされていますよね。我々飲食店もそうなんですけれども、思った以上に解決の糸口がなかなか見えないなと感じていました。だからこそ今回のお菓子は、これからの未来につながるような、希望を持てるようなお菓子にしたいという想いは強かったです。

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今回製作していただいた和菓子「相生の松」(試作段階)

金巻さん 明るい未来を表現するようなものが良いかなと思っていたところ、青海波(せいがいは)がまず頭に浮かんだんですよね。青海波はお菓子の模様にも出てきて、平和な世界が持続するような、繰り返す永遠の波模様という記憶がありました。それをどうやってお菓子に表現しようかと思った時に、りゅーとぴあの広報誌「お、能!~高砂編~」のストーリーを読んで、ご夫婦の箒(ほうき)と熊手の話も取り入れてみようと思ったりしまし、「相生(あいおい)の松」という言葉の響き、良いなと思いました。

スタッフO 美しい言葉ですよね。

金巻さん 夫婦の松ですし、作品に一番合っているかもしれないと思ったんです。実際に試作品をつくる時に、松はどうやって表現しようと考えていたら、ちょうど松の焼き印があったんですよ。今回はスタンプみたいに押し印という方法で、お抹茶の粉を焼き印の先につけて、それをお菓子に押しました。

スタッフO お抹茶であのきれいな緑の部分を表現されたんですね。

金巻さん 本来は焼き印なので、おまんじゅうみたいなお菓子に押すのですが、それだと茶色にしかならないんです。やっぱり、緑の松はお抹茶の粉を使った押し印の方法が良いなと思いまして。まさか青海波と松が合うとは思わず、今回の雰囲気のお菓子は初めて作りました。人と人の出会いだけでなく、和菓子の中でも新たな出会いがあって良かったなと思います。

「相生の松」が結納の御品になりました

スタッフO 当日、お客様にお配りしたお菓子の中に入れてくださった金巻屋さんのお言葉、すごく印象的でした。

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来場者プレゼントの和菓子とともに封入されていたメッセージ

金巻さん いや、あれはお恥ずかしいのですが…。当日お能「高砂」を観て、自分の言葉が軽かった。もっともっと深く知らなければいけなかったな、と反省しました…。

スタッフO 終演後に受け取った和菓子の中に金巻社長ご自身のお言葉でお手紙が入っていたということが、作品の意味合いをすごく深くしたと思います。

金巻さん いやぁ、そうですか。でも、確かにメッセージが最後にあるとないとでは違ったかもしれませんね。

スタッフO お家に帰ってお菓子を開けてメッセージを読んだら、それだけで公演を観た後の余韻がまた一段深まるなと思います。

金巻さん ありがとうございます。そういう風にとっていただけて嬉しいです。ご来場のお客様にお嬢さんの結納で「相生の松」の和菓子を使いたいと仰ってくださった方がいたんです。それで私ね、「お手紙を入れて良かったな」「意味が伝わって良かったな」としみじみと思いました。

スタッフO お菓子の銘を「相生の松」にしてくださっていたので、それがなおのことぴったりだと思いました! “夫婦の象徴”でもあり、新しくご結婚される方の門出を祝うのに素晴らしい、本当に素敵なお話でしたね。

金巻さん いや、本当に。松のエピソードの「お前百(掃く)まで、わしゃ九十九まで(熊手)」で、九十九が熊手と掛けていまして、びっくりしました。

スタッフO 語呂合わせがよく出来ていますよね。

金巻さん 日本人って本当に洒落が上手ですよね。

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高砂神社にある現在の「相生の松」

スタッフO さきほどお菓子で青海波模様のお話を伺いましたが、実は「高砂」の謡の中にも「青海波」という言葉が出てくるんです。今回は本当に色々なものがうまくリンクしたんだなと思います。

金巻さん うちの母親も、今まで作ったお菓子の中で一番の出来だといってくれました(笑)。私が修行から帰ってきてから40年くらい経つんですけど、「その中で一番良い、40年に一回の作品だ」とか言っていて。

スタッフO すごい褒め言葉ですね!それにしても、公演前や本番当日だけでなく終わった後にもこんなに色々なお話が出てくる公演は私も初めてです。先程伺った結納の御品にという後日談だったり、アンケートにも色々なお声が寄せられましたし、お客様から直接お電話もいただいたんですよ。

金巻さん そうでしたか。職人冥利に尽きますね。つくったものをお客様がどう受け取られたのか、それが返ってくるのが本当に嬉しいです。

スタッフO なかなかこんな風に直接的にお声が返ってくることはないので、ちょっとびっくりするくらいのたくさんの反応がいただけて、私たちも嬉しく感じています。

金巻さん 商売の本来の姿ですよね。我々が見逃していたものといいますか…。あらためて、原点に帰らなければと身が引き締まります。

スタッフO 演目としても、深い意味のあるものだったのかなと思いますね。本当に、いろんなものが出会って繋がりを感じられる公演になったのかなと思います。

金巻さん 余談なのですが…。当日公演会場で久しぶりに会った人がいて、昔のお茶のお稽古仲間だったんですけど。会って挨拶をした後に席を探したら、なんと偶然お隣の席で!あんなにたくさんお客様がいたのに。いや~、びっくりしました。

スタッフO お席、社長からご予約をいただいて私が手配しましたけれど、別にお隣の方を調べて押さえたわけではないですからね(笑)

 

金巻屋社長インタビュー「お菓子で希望をつくりたい」【後編】につづく…

甘いお菓子といえば、一緒に楽しみたくなるのはお茶ではないでしょうか?茶道の大成者・千利休をテーマにした新作能「利休」が3月13日(日)14時にりゅーとぴあ能楽堂で上演されます。歌人・馬場あき子さんの書き下ろしということで、新潟日報にもインタビューが掲載されました!千利休生誕500年の記念イヤーにぜひお楽しみください。

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